諸家先秦兩漢魏晉南北朝韻譜韻讀
漢語の古典文献における韻文、すなわち押韻による韻律効果を考慮して編まれた文は、漢語の音韻史、とりわけ韻母、および声調の歴史的変遷を知るための基本的な資料となります。そのような問題意識から、これまでに多くの学者が歴代の韻文に対する解釈を示してきました。古代の韻文は、現代とは異なる、当時の音韻によっていますから、諸家による押韻の認定は取りも直さず彼らが想定する古代の(とくに韻母、声調についての)音韻体系と表裏一体の関係にあり、それらを確かめていくことは漢語音韻学の研究史を、その根拠とともにたどっていくことと同義と言えます。本データベースの制作目的は、まさにその点にあります。
本データベースは、先秦~南北朝の韻文について、諸家による押韻解釈を韻譜・韻読両形式で表示します。また逆に、諸家が整理した韻部、あるいは任意の文字から韻文を検索することもできます。さらに、ある諧声系列について、歴代の押韻例を一度に検索することもできます。
本データベースにおいて、韻字は以下のように色分けして表示しています(色だけでなく、文字でも区別するようにしています) 。下表はまた、諸家の韻譜へのリンクにもなっています。
諸家韻部對應、彩色凡例
顧炎武先秦10部
a b c
d
γ β α
1
10部
2
3
3部
7部
4
1部
5
5部
6
7
2部
9部
8
8部
9
4部
10
11
12
6部
段玉裁先秦17部
a b c
d
γ β α
1
7部
2
8部
3
5部
10部
4
4部
9部
5
3部
6
2部
7
1部
6部
8
16部
11部
9
15部
12部
10
13部
11
14部
12
17部
王念孫先秦21部
a b c
d
γ β α
1
16緝
3侵
2
15盍
4談
3
18魚
5陽
4
20侯
1東
5
20幽
6
21宵
7
17之
2蒸
8
11支
6耕
9
13脂
12至
7真
10
8諄
11
14祭
9元
12
10歌
姚文田先秦17部+入9部
a b c
d
γ β α
1
9合
2侵
2
17炎
3
12魚
5昔
16庚
4
13侯
6屋
1東
5
14𢆶
7匊
6
15爻
8樂
7
4之
1戠
3登
8
6支
3易
10青
9
5齊
4卩
7真
10
2月
8文
11
9寒
12
11麻
江有誥先秦21部
a b c
d
γ β α
1
21緝
18侵
2
20葉
19談
3
5魚
14陽
4
4侯
15東
5
2幽
16中
6
3宵
7
1之
17蒸
8
7支
13耕
9
8脂
12真
10
11文
11
9祭
10元
12
6歌
王力先秦29部
a b c
c'
d
γ β α
1
19緝əp
28侵əm
2
20盍ɑp
29談ɑm
3
5魚ɑ
14鐸ɑk
23陽ɑng
4
4侯o
13屋ok
22東ong
5
2幽u
11覺uk
28侵əm
6
3宵ô
12藥ôk
7
1之ə
10職ək
21蒸əng
8
6支e
15錫ek
24耕eng
9
7脂ei
16質et
25真en
10
8微əi
17物ət
26文ən
11, 12
9歌ɑi
18月ɑt
27元ɑn
Baxter先秦
a b c
c'
d
γ β α
1
ɨps 緝1 ɨp
侵1 ɨm
ips 緝2 ip
侵2 im
ups 緝3 up
侵3 um
2
aps 盍1 ap
談1 am
eps 盍2 ep
談2 em
ops 盍3 op
談3 om
3
魚 a
aks 鐸 ak
陽 aŋ
4
侯 o
oks 屋 ok
東 oŋ
5
幽1 u
uks 覺1 uk
冬1 uŋ
幽2 iw
iwks 覺2 iwk
6
宵1 aw
awks 藥1 awk
宵2 ew
ewks 藥2 ewk
7
之 ɨ
ɨks 職 ɨk
蒸 ɨŋ
8
支 e
eks 錫 ek
耕 eŋ
9
iks 質2 ik
真2 iŋ
脂1 ij
its 質1 it
真1 in
10
微1 ɨj
ɨts 物1 ɨt
文1 ɨn
微2 uj
uts 物2 ut
文2 un
11, 12
歌1 aj
ats 月1 at
元1 an
歌2 ej
ets 月2 et
元2 en
歌3 oj
ots 月3 ot
元3 on
羅常培・周祖謨(兩漢)27部
a b c
d
γ β α
1
27緝
17侵
2
26盍
16談
3
4魚
22鐸
12陽
4
21屋
11東
5
2幽
19沃
10冬
6
3宵
20藥
7
1之
18職
9蒸
8
6支
23錫
13耕
9
7脂
24質
14真
10
11
8祭
25月
15元
12
5歌
羅常培・周祖謨(淮南子)29部
a b c
d
γ β α
1
29緝
18侵
2
28盍
17談
3
4魚
22鐸
11陽
4
23屋
12東
5
2幽
20沃
6
3宵
21藥
7
1之
19職
10蒸
8
6支
24錫
13耕
9
7脂
25質
14真
10
8微
26術
15諄
11
9祭
27月
16元
12
5歌
羅常培・周祖謨(易林)25部
a b c
d
γ β α
1
25緝
15侵
2
24盍
3
4魚
20鐸
11陽
4
19屋
10東
5
2幽
17沃
6
3宵
18藥
7
1之
16職
9蒸
8
6支
21錫
12耕
9
7脂
22質
13真
10
11
8祭
23月
14元
12
5歌
以上の表は頼惟勤「上古音分部圖説 」の形式を借用しています。頼氏の表は、清朝分部説の進展を極めて明快に示します。
これらの表で、横軸の a, b, c は陰声韻(閉鎖音、鼻音韻尾をもたない韻部)で中古で平声、上声、去声になるもの、α, β, γ は陽声韻(鼻音韻尾をもつ韻部)で中古で平声、上声、去声になるもの、また d は入声韻(閉鎖音韻尾をもつ韻部)をそれぞれ表しています。いまの学説では中古の去声を平上類に由来するものと入類に由来するものの二類に分ける考え方が有力で、上の王力、Baxter の表では、陰声韻の去声を平上類に由来するもの(上表の c)と入類に由来するもの(上表の c')の二類に分けています。そこで、歌部去声字はすべて c、祭部(月部)去声字はすべて c' であり、そうするともう頼表における11段目と12段目を分ける必要がありません(両部が去声の欄で衝突するから分けていたのです)。頼氏の作図方針に従うなら分けておくべきですが、ここでは王力、Baxter それぞれの体系に合わせて表の形を変えてあります。
顧炎武以降、分部が徐々に細かくなっているのは研究の進展による分部の精密化によるものですが、羅常培・周祖謨で一部の韻部が合わさっているのは漢代における押韻の枠組みの変化によるものです(ただし、今後の研究の進展によっては漢代以降も分部が精密化する可能性はありましょう)。漢代にはこれら以外にも重要な韻部の分合が起こっていますが(之部の一部→幽部など)、上表には反映していません。
後漢以降はこのような韻部の部分的な分合がさらに多くなり、体系そのものが頼表から大きく変化していくため、頼氏の形式では作図が困難になります。いま、先秦~南北朝の韻部の分合を周祖謨説に基づいて図示すると以下のようになります。これらの状況については、本ページのデータベースを検索すると具体的に見て取れると思います。
所拠
顧炎武『音学五書』北京中華書局據觀稼樓仿刻本重印本
段玉裁『六書音均表』五巻,藝文印書館據嘉慶二十年經韵樓刊本景印
作業中(2024.10.25)
周祖謨隋まで全て完成。
引き続き、于安瀾鋭意構築中。目下齊まで終了、梁作業中。